親族中心で運営される宗教法人等への寄付・遺贈、および直系尊属から孫世代への婚姻関連贈与について、相続税法66条4項(持分の定めのない法人を利用した不当減少規定)、相続税法21条の3、関連通達を踏まえた論点を整理する。形式要件と実質判断の二段構造に注意。
論点1 持分の定めのない法人への金銭寄付の課税
適用法令の枠組み
法人は本来、相続税・贈与税の納税義務者ではない。しかし、持分の定めのない法人(宗教法人、一般社団法人、学校法人等)に対する贈与・遺贈で、贈与者の親族その他特別関係者の相続税・贈与税の負担が「不当に減少する結果となると認められるとき」は、当該法人を個人とみなして贈与税・相続税が課される(相続税法66条4項、同条1項)。
不当減少の判定要件
相続税法施行令33条3項各号は、不当減少否認を回避するための4要件を定める。
| 1号 | 運営組織が適正であり、かつ役員等のうち親族関係を有する者およびこれらと特殊の関係を有する者の数が、それぞれ役員等の数の3分の1以下とする旨が定款・寄附行為・規則に定められていること |
| 2号 | 寄附者・親族その他特別関係者に対し、施設利用・金銭貸付・資産譲渡・給与支給・役員選任等で特別の利益を与えていないこと |
| 3号 | 解散時の残余財産が国・地方公共団体または公益を目的とする事業を行う他の法人に帰属する旨が定款・寄附行為・規則に定められていること |
| 4号 | 法令違反・帳簿の仮装隠ぺい等、公益に反する事実がないこと |
実質判断(重要裁決)
令和3年5月20日裁決(国税不服審判所、公表裁決事例)は、宗教法人に対する数千万円規模の金銭移転について、形式要件不充足のなかでも「実質上の私的支配」が認められないとして相続税法66条4項の課税処分を全部取消し。判断枠組みは、法人の社会的地位、寄附行為・定款の定め、役員構成、収入支出の経理、財産管理の状況等から、財産提供者およびその特別関係者が法人の業務・財産運用・解散時の財産帰属を実質的に私的支配しているかで判定する。
当てはめ
- 関係者が親族のみの法人では、施行令33条3項1号の形式要件を満たさず、課税リスクは類型的に高い。
- 寄付金が確実に法人本来事業(修繕・建替え等)に使われ、議事録・収支記録等で透明性が確保されていれば、実質判断で課税を免れる余地はある。
- 確実性を高めるためには、親族以外の役員・総代の追加、定款・寄附行為・規則の整備、寄付契約書(使途限定)、議事録・収支報告書の整備が望ましい。
論点2 財産の一部を法人に遺贈する場合の課税
原則
法人は相続税の納税義務者でないため、原則として法人が遺贈で取得した財産には相続税が課されず、他の相続人の課税価格にも算入されない。
相続税法66条4項のリスク
大きな割合の財産が親族支配の強い法人へ遺贈される場合、課税庁の関心を引きやすい構図となる。判定基準は論点1と同じ(施行令33条3項各号、実質判断)。
相続税法12条1項3号との関係
相続税法12条1項3号は、宗教・慈善・学術その他公益事業を行う者で政令で定めるものが、相続・遺贈により取得した財産で公益事業の用に供することが確実なものを非課税と定める。この規定は主として個人および人格のない社団・財団等を対象とした規定であり、法人格を有する宗教法人については、66条4項のみなし課税を回避できるかが主要論点となる。
仮に12条1項3号の枠組みを類推整理する場合でも、相続税法基本通達12-3により相続開始時に具体的計画と公益事業供用の状況が必要、基本通達12-7により取得日から2年経過時点で公益事業の用に供されていないと課税対象になる。建替えの設計概要・見積・工程表等の具体的計画書の準備が望ましい。
みなし譲渡所得課税の論点
遺贈財産に含み益のある不動産・有価証券等が含まれる場合、被相続人側で含み益相当のみなし譲渡所得課税が生じる可能性(所得税法59条1項1号)。回避には租税特別措置法40条の国税庁長官承認の取得が要件となる(公益増進への著しい寄与、2年以内の公益目的事業への直接供用、特別利益供与なし等)。
必要な手続き(推奨)
- 法人の親族役員割合の3分の1以下への調整
- 定款・寄附行為・規則の残余財産帰属先の明定
- 役員給与・宿舎・車両等の世間相場との整合性確保(特別利益供与の排除)
- 遺言書付言事項で遺贈の使途を明示(本来事業のため)
- 議事録・収支報告書の整備(宗教法人の場合、宗教法人法25条備付書類)
- 必要に応じ租税特別措置法40条の国税庁長官承認を取得
論点3 婚姻関連贈与(結納金等)の課税
関連規定
相続税法21条の3第1項2号は、扶養義務者相互間において生活費・教育費に充てるためにした贈与のうち通常必要と認められるものを贈与税の課税価格に算入しない旨を定める。直系血族(祖父母・父母・子・孫)は相互に扶養義務を負うため(相続税法1条の2第1号、民法877条1項)、これらの間の贈与は本号の対象となりうる。
相続税法基本通達21の3-9は、香典・花輪代・年末年始の贈答・祝物・見舞い等のための金品で、社交上の必要によるもので社会通念上相当なものは贈与税を課さない旨を定める。結納金そのものの明示はないが、実務上は「祝物」の延長線上で整理されることが多い。
相続税法基本通達21の3-5は、生活費・教育費名義で取得した財産を預貯金や投資に充てた場合は「通常必要なもの」に該当せず贈与税対象となる旨を定める。婚姻関連で受領した金銭が貯蓄・投資に回された場合、この通達の趣旨に照らして課税対象となる余地がある。
業界・地域慣習との関係
結納金の一般相場は地域・家庭によって幅があるが、特定の業界・地域慣習として一般相場を上回る金額が標準となっているケースもある。社会通念上相当の判定は、贈与者・受贈者の地位・関係、慣習、目的等を総合勘案するものなので、当該慣習を客観的に立証できれば(同業の他事例、慣習に関する記録、儀式記録等)、社会通念上相当と整理される余地はある。
ただし、一般相場から大きく離れる金額は、課税庁との見解相違が生じうるグレーゾーンであり、贈与税リスクは残る。慣習を客観的に立証する資料の準備、実際に結婚関連費用として消費されたことの記録化が重要。
結婚・子育て資金一括贈与の非課税特例
直系尊属から18歳以上50歳未満の子・孫への結婚・子育て資金の一括贈与については、租税特別措置法70条の2の3により、総額1000万円(うち結婚関係300万円)まで贈与税が非課税となる特例がある。現行制度では令和9年(2027年)3月31日までに信託銀行等で契約締結が必要。
結婚関係300万円の対象範囲は挙式費用・衣装代・新居費用・転居費用等に限定されており、結納金そのものは対象に含まれない可能性が高い点に留意が必要。
結論(要点整理)
親族中心で運営される法人への寄付・遺贈の課税回避には、形式要件(施行令33条3項)と実質判断(私的支配の有無)の双方で備える必要がある。資金使途の明確化だけでは形式要件不充足を完全にはカバーできない。組織体制(親族3分の1以下、定款整備、運営透明化)に踏み込むのが安全側の対応。
婚姻関連贈与は、扶養義務者間の通常必要範囲または社会通念上相当な祝物として非課税扱いされる実務はあるが、一般相場から離れる金額については慣習の客観的立証と消費実態の記録化が要となる。
参考根拠
- 相続税法66条1項・4項(持分の定めのない法人に対するみなし課税)
- 相続税法施行令33条3項各号(不当減少否認の判定要件)
- 相続税法基本通達66-4関係
- 令和3年5月20日裁決(国税不服審判所、公表裁決事例)
- 相続税法12条1項3号、施行令2条(公益事業財産の非課税)
- 相続税法基本通達12-3、12-7(公益事業供用の確実性、2年経過時の課税)
- 所得税法59条1項1号(みなし譲渡所得)
- 租税特別措置法40条(公益法人等への財産寄附のみなし譲渡所得非課税)
- 相続税法21条の3第1項2号(扶養義務者間の生活費・教育費贈与の非課税)
- 相続税法1条の2第1号、民法877条1項(扶養義務者の範囲)
- 相続税法基本通達21の3-5、21の3-9(生活費・教育費・祝物の取扱い)
- 租税特別措置法70条の2の3(結婚・子育て資金一括贈与の非課税特例)